銀 龍 物 語 Epi.10 同志
化学部
郭めい
先日、向かいの席に座る、商標部の朝鮮族の可愛い女の子の後輩に、こんな質問をされました。
「年上の男性の同僚の名前を呼ぶ時って、何と呼べばいいんでしょうか。」
この問題、一見すると「??」なのですが、同世代の中でも上下関係が存在する環境の中で育った者にとっては、実に切実な問題なのです。
というのも、中国語には日本語で「○○さん」にあたる、万能な敬称がないのです。お客様ならば、男性の方には「○○先生」、女性の方には「○○女士」をつけることで敬意を表しますが(英語でいうとMr.とMs.みたいなもの)、同僚だと互いにフルネームで呼び捨てが普通なのです。
なぜこれ程までに、この問題を取り上げるのか、それは私自身、かつて非常に悩んだからです。私は中国生まれの生粋の中国人ですが、6歳の時両親の日本留学とともに日本に渡り、それから修士課程を終えるまで、日本で育ちました。
日本から帰ってきて、本格的に就職する前に中国のある企業で行っていたインターンで、まったく同じ問題に突き当たりました。中高ともに体育会系の部活(陸上部)に所属していた者としては、若輩者の分際で先輩を呼び捨てにするなどとても恐れ多く、かといって、どんな敬称をつけて呼べばいいのか全く分かりませんでした。
自分なりに周りの人に尋ねたり、大学生(同じインターン生)に聞いたりしたところ、研究室の中では、女性の先輩は「○○姐」(ねえさんという意味)、男性の先輩は「○○哥」(おにいさんという意味)と呼ぶことが多いことが分かりました。
しかし、それでもなお、問題解決には至りません。
やはり学生と社会人とでは、互いの距離感が違います。
職場の女性の先輩に「○○姐」と呼びかけるのは気分的にも感覚的にもしっくる来るのですが、男性の先輩を「○○哥」と呼ぶわけにはいきません。呼ぶほうもおそらく呼ばれるほうも、どうも距離が近すぎて背中が痒くなるような、妙な感じがするのです。
この感覚は中国人の友達に話しても、家に帰って家族に相談しても、誰も理解を示してくれませんでした。最後の望みだと思い、すがった婆ちゃんの知恵袋。
返ってきた答えは、
「そんなの簡単だよ。男も女も「同志」と呼べばいい。」
古き良き中国を垣間見た瞬間でした。
さすがに「○○同志」は多分、ない。しかし、かと言ってしっくり来る呼び方もない。
そんな頭の痛い問題を影で抱えながらこの業界に入ったのですが、この問題は銀龍に来てから一瞬で解決しました。
なぜなら、老若男女とりあえず皆「○○老师(日本語でいうと○○先生の意味)」と呼んでおけばいいからです。ここでの「老师」は、日本で弁護士や弁理士の先生にを呼ぶときにつけるものと感覚も同じなので、違和感がまったくありません。
これなら距離感を間違うこともなく、且つしっかりと敬意を払っている感じになります。気分的にも楽になり、今度こそ正々堂々と会社の先輩方に声をかけられるようになりました。
今振り返って見ると、なんでそんなことで悩んでいたのだろうと思うくらい些細なことでしたが、当時はなかなか思い切ることができず、先輩方に用事があるたび、名前を呼ばないようにいろんな試行錯誤をしていました。やはり、まだまだ未熟で青かったのです。
慣れとは恐ろしいもので、今ではだんだんとフルネームの呼び捨てに抵抗がなくなってきました。最近はだいぶ先輩にあたる方でも、間接的に話に出てくる時は敬称が外れるようになってきました(危ない危ない)。
さて、こんな私ですが、銀龍に入社してもうすぐ2年になろうとしています。会社の雰囲気は入社した時とまったく変わらず、変な中国語を繰り出す私を暖かく受け入れ、尚且つ、たまに日本語でボケてもきちんとツッコミを入れてくれる同志達がいる素晴らしい環境です。この先3年目も4年目も、同志達といろんなことを乗り越えて成長していきたいなと思う今日この頃です。
以上
(銀龍物語Epi.10 おしまい)