銀 龍 物 語 Epi.01 青色

化学部
副部長 準パートナー
弁理士 陳 彦









 近頃、窓から外を見ると景色が灰色である日が多く、日本にいた頃はいつも空が青かったことを、懐かしく思い出します。

 あの頃は、大学院在学中でありまだ若く、学業をがんばるとともに、小田急線沿線でアルバイトをしていました。洋食のお店で、かわいいエプロン付きの服を着てウェイトレスをしていました。このお店は、小田急線の経堂駅から徒歩3分のところにあり、お店のマスターには、5年間もお世話になりました。
 お店の常連さんのうちの一人の20代後半だったMさんは、平日には必ずハンバーグ定食、週末には必ずステーキ定食を注文されていました。平日にMさんがお越しになった際には、私から先に「ハンバーグ定食ですか?」と質問したりしていました。年齢が近かったため、日本語の勉強になるので気軽にお話をさせていただいていました。

 大学院の教授や研究室の方々の助けを借りながら大学院を無事に卒業した後、マスターには卒業のお祝い会をしていただきました。常連さんの方々には、ちゃんと挨拶をする機会がありませんでした。

 大学院を卒業した後、Dragon IP東京ブランチに入所しました。知財に関することは初めてであったため、とにかく半年間は仕事をしながら猛烈に勉強しました。

 ある春の日、所長のハオから「明日、クライアントを訪問して打合せをするので同行してください」と言われ、案件の状況を十分に把握して打合せに臨みました。
 初めての打合せであり、知財部の方が会議室に入ってくるのを手のひらを少し湿らせながら待っていました。会議室のドアが開き、そして、2名の方が入ってきました。

 『ハンバーグ定食ですか?』
 (反射的に言ってしまいました。 声に出したかどうかは記憶がありません。)

 お互い、まばたきをせずに目を合わせていました。

 あのMさんが、クライアントの知財部でお仕事をされていたのです。

 その後、Dragon IP東京ブランチで勤務しているときに中国の弁理士試験に合格し、2009年に北京に戻り、現在は化学部の日本語グループのリーダーを担当しています。もちろん、現在でもMさんは知財部におられ、弊所のクライアントです。また、私は、今では一児の母です。

 私は、これまで数多くの日本の方にお世話になり、微力ながら、Dragon IPでのお仕事を通じて、あるいは、講師を担当させていただいている日本知的財産協会の「化学系中国語クレーム読解講座」(R41)などを通じて、日本の皆様に少しでも恩返しをしたいと考えております。

 来年の2月にその講座のために日本出張の予定があるので、久しぶりにマスターに会いに行こうと考えています。

 Mさん、一緒に行ってみませんか?


                   (銀龍物語Epi.01  おしまい)